ら)誰です、あなたは?
王子 (独り語《ごと》のように)しまった! 声を出したのは悪かったのだ!
王女 声を出したのが悪い? 気違《きちが》いかしら? あんな可愛い顔をしているけれども、――
王子 顔? あなたにはわたしの顔が見えるのですか?
王女 見えますわ。まあ、何を不思議《ふしぎ》そうに考えていらっしゃるの?
王子 このマントルも見えますか?
王女 ええ、ずいぶん古いマントルじゃありませんか?
王子 (落胆《らくたん》したように)わたしの姿は見えないはずなのですがね。
王女 (驚いたように)どうして?
王子 これは一度着さえすれば、姿が隠れるマントルなのです。
王女 それはあの黒ん坊の王のマントルでしょう。
王子 いえ、これもそうなのです。
王女 だって姿が隠れないじゃありませんか?
王子 兵卒《へいそつ》や腰元《こしもと》に遇《あ》った時は、確かに姿が隠れたのですがね。その証拠《しょうこ》には誰に遇っても、咎《とが》められた事がなかったのですから。
王女 (笑い出す)それはそのはずですわ。そんな古いマントルを着ていらっしゃれば下男《げなん》か何かと思われますもの。
王子 下男!
前へ
次へ
全19ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング