し王女はあの王様が大嫌《だいきら》いだと云う噂《うわさ》だぜ。
第一の農夫 嫌いなればお止しなされば好《い》いのに。
主人 ところがその黒ん坊の王様は、三つの宝ものを持っている。第一が千里飛べる長靴《ながぐつ》、第二が鉄さえ切れる剣《けん》、第三が姿の隠れるマントル、――それを皆|献上《けんじょう》すると云うものだから、欲の深いこの国の王様は、王女をやるとおっしゃったのだそうだ。
第二の農夫 御可哀《おかわい》そうなのは王女御一人だな。
第一の農夫 誰か王女をお助け申すものはないだろうか?
主人 いや、いろいろの国の王子の中には、そう云う人もあるそうだが、何分あの黒ん坊の王様にはかなわないから、みんな指を啣《くわ》えているのだとさ。
第二の農夫 おまけに欲の深い王様は、王女を人に盗まれないように、竜《りゅう》の番人を置いてあるそうだ。
主人 何、竜じゃない、兵隊だそうだ。
第一の農夫 わたしが魔法《まほう》でも知っていれば、まっ先に御助け申すのだが、――
主人 当り前さ、わたしも魔法を知っていれば、お前さんなどに任《まか》せて置きはしない。(一同笑い出す)
王子 (突然一同の中へ飛び出
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