長靴ぐらい、誰がとっても好《い》いじゃないか?
第二の盗人 いえ、そうは行きません。このマントルは着たと思うと、姿の隠れるマントルなのです。
第一の盗人 どんなまた鉄の兜《かぶと》でも、この剣で切れば切れるのです。
第三の盗人 この長靴もはきさえすれば、一飛びに千里飛べるのです。
王子 なるほど、そう云う宝なら、喧嘩をするのももっともな話だ。が、それならば欲張《よくば》らずに、一つずつ分ければ好《い》いじゃないか?
第二の盗人 そんな事をしてごらんなさい。わたしの首はいつ何時《なんどき》、あの剣に切られるかわかりはしません。
第一の盗人 いえ、それよりも困るのは、あのマントルを着られれば、何を盗まれるか知れますまい。
第二の盗人 いえ、何を盗んだ所が、あの長靴をはかなければ、思うようには逃げられない訣《わけ》です。
王子 それもなるほど一理窟《ひとりくつ》だな。では物は相談だが、わたしにみんな売ってくれないか? そうすれば心配も入らないはずだから。
第一の盗人 どうだい、この殿様に売ってしまうのは?
第三の盗人 なるほど、それも好《い》いかも知れない。
第二の盗人 ただ値段次第だな。

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