は必ず画帖《がじょう》などにこう書いていた。
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君看双眼色《きみみよそうがんのいろ》
不語似無愁《かたらざればうれいなきににたり》
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3 一等戦闘艦××
一等戦闘艦××は横須賀《よこすか》軍港のドックにはいることになった。修繕工事《しゅうぜんこうじ》は容易に捗《はか》どらなかった。二万|噸《トン》の××は高い両舷《りょうげん》の内外に無数の職工をたからせたまま、何度もいつにない苛立《いらだ》たしさを感じた。が、海に浮かんでいることも蠣《かき》にとりつかれることを思えば、むず痒《がゆ》い気もするのに違いなかった。
横須賀軍港には××の友だちの△△も碇泊《ていはく》していた。一万二千噸の△△は××よりも年の若い軍艦だった。彼等は広い海越しに時々声のない話をした。△△は××の年齢には勿論、造船技師の手落ちから舵《かじ》の狂い易いことに同情していた。が、××を劬《いたわ》るために一度もそんな問題を話し合ったことはなかった。のみならず何度も海戦をして来た××に対する尊敬のためにいつも敬語を用いていた。
するとある曇った午後、△△は
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