やうな話、存外《ぞんぐわい》あるものなり。皆|小穴一遊亭《をあないちいうてい》に聞いた。(七月二十三日)
芭蕉
又|猿簔《さるみの》を読む。芭蕉《ばせを》と去来《きよらい》と凡兆《ぼんてう》との連句の中には、波瀾老成の所多し。就中《なかんづく》こんな所は、何《なん》とも云へぬ心もちにさせる。
[#ここから3字下げ]
ゆかみて蓋《ふた》のあはぬ半櫃《はんびつ》 兆《てう》
草庵《さうあん》に暫く居ては打《うち》やふり 蕉《せを》
いのち嬉しき撰集《せんじふ》のさた 来《らい》
[#ここで字下げ終わり]
芭蕉が「草庵に暫く居ては打やふり」と付けたる付け方、徳山《とくさん》の棒が空に閃《ひらめ》くやうにして、息もつまるばかりなり。どこからこんな句を拈《ねん》して来るか、恐しと云ふ外《ほか》なし。この鋭さの前には凡兆と雖《いへど》も頭が上《あが》るかどうか。
凡兆と云へば下《しも》の如き所あり。
[#ここから3字下げ]
昼ねふる青鷺《あをさぎ》の身のたふとさよ 蕉
しよろしよろ水に藺《ゐ》のそよくらん 兆
[#ここで字下げ終わり]
これは
前へ
次へ
全29ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング