た。何だかその※[#「均のつくり」、第3水準1−14−75]が芭蕉や松にも、滲《し》み透《とほ》るやうな心もちがした。すると向うからこれも一人《ひとり》、まつすぐに歩いて来る女があつた。やがて側へ来たのを見たら、何処《どこ》かで見たやうな顔をしてゐた。すれ違つた後《あと》でも考へて見たが、どうしても思ひ出せなかつた。が、何《なん》だか風流な気がした。それから賑《にぎやか》な往来へ出ると、ぽつぽつ雨が降つて来た。その時急にさつきの女と、以前|遇《あ》つた所を思ひ出した。今度は急に下司《げす》な気がした。四五日後|折柴《せつさい》と話してゐると、底に穴を明けた瀬戸《せと》の火鉢へ、縁日物《えんにちもの》の木犀《もくせい》を植ゑて置いたら、花をつけたと云ふ話を聞かせられた。さうしたら又牛込で遇つた女の事を思ひ出した。が、下司《げす》な気は少しもなかつた。(十月十日)
Butler の説
サムエル・バトラアの説に云ふ。「モリエルが無智の老嫗《らうう》に自作の台本を読み聞かせたと云ふは、何も老嫗《らうう》の批評を正しとしたのではない。唯自ら朗読する間《あひだ》に、自ら台本の瑕疵《
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