は暗くかげりながら、身にしみるやうに冷々する。その障子の方を枕にして、寂然《じやくねん》と横はつた芭蕉のまはりには、先《まづ》、医者の木節《もくせつ》が、夜具の下から手を入れて、間遠い脈を守《も》りながら、浮かない眉をひそめてゐた。その後に居すくまつて、さつきから小声の称名《しようみやう》を絶たないのは、今度伊賀から伴《とも》に立つて来た、老僕の治郎兵衛に違ひない。と思ふと又、木節の隣には、誰の眼にもそれと知れる、大兵肥満の晋子其角《しんしきかく》が、紬《つむぎ》の角通しの懐を鷹揚《おうやう》にふくらませて、憲法小紋の肩をそば立てた、ものごしの凛々《りり》しい去来と一しよに、ぢつと師匠の容態を窺《うかが》つてゐる。それから其角の後には、法師じみた丈艸《ぢやうさう》が、手くびに菩提樹《ぼだいじゆ》の珠数をかけて、端然と控へてゐたが、隣に座を占めた乙州《おつしう》の、絶えず鼻を啜《すす》つてゐるのは、もうこみ上げて来る悲しさに、堪へられなくなつたからであらう。その容子《ようす》をぢろぢろ眺めながら、古法衣《ふるごろも》の袖をかきつくろつて、無愛想な頤《おとがひ》をそらせてゐる、背の低い僧形
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