は、あの侍たちの後《あと》を追って、笛をとり返して上げますから、少しも御心配なさいますな。」と云うか云わない中《うち》に、風はびゅうびゅう唸りながら、さっき黒犬の飛んで行った方へ、狂って行ってしまいました。
が、少したつとその風は、またこの三つ叉《また》になった路の上へ、前のようにやさしく囁きながら、高い空から下《おろ》して来ました。
「あの二人の侍たちは、もう御二方の御姫様と一しょに、飛鳥《あすか》の大臣様《おおおみさま》の前へ出て、いろいろ御褒美《ごほうび》を頂いています。さあ、さあ、早くこの笛を吹いて、三匹の犬をここへ御呼びなさい。その間《あいだ》に私たちは、あなたが御出世の旅立を、恥しくないようにして上げましょう。」
こう云う声がしたかと思うと、あの大事な笛を始め、金の鎧《よろい》だの、銀の兜《かぶと》だの、孔雀《くじゃく》の羽の矢だの、香木《こうぼく》の弓だの、立派な大将の装いが、まるで雨か霰《あられ》のように、眩《まぶ》しく日に輝きながら、ばらばら眼の前へ降って来ました。
六
それからしばらくたって、香木の弓に孔雀の羽の矢を背負《しょ》った、神様の
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