犬と笛
芥川龍之介
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)大和《やまと》の国
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一生|己《おれ》の代りに
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)嗅げ[#「嗅げ」に傍点]
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いく子さんに献ず
一
昔、大和《やまと》の国|葛城山《かつらぎやま》の麓に、髪長彦《かみながひこ》という若い木樵《きこり》が住んでいました。これは顔かたちが女のようにやさしくって、その上《うえ》髪までも女のように長かったものですから、こういう名前をつけられていたのです。
髪長彦《かみながひこ》は、大そう笛《ふえ》が上手でしたから、山へ木を伐《き》りに行く時でも、仕事の合い間合い間には、腰にさしている笛を出して、独りでその音《ね》を楽しんでいました。するとまた不思議なことには、どんな鳥獣《とりけもの》や草木《くさき》でも、笛の面白さはわかるのでしょう。髪長彦がそれを吹き出すと、草はなびき、木はそよぎ、鳥や獣はまわりへ来て、じっとしまいまで聞いていました。
ところがある日のこと、髪長
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