本の神隠《かみかく》しに、新解釈を加へたやうなものです。これはその後《ご》ビイアスが、第四の空間へはひる刹那《せつな》までも、簡勁《かんけい》に二三書いてゐる。殊《こと》に或少年が行方《ゆくへ》知れずになる。尤《もつと》も或る所までは雪の中に、はつきり足跡《あしあと》が残つてゐる。が、それぎりどうしたか、後《あと》にも先にも行つた容子《ようす》がない。唯、母親が其処《そこ》へ行《ゆ》くと、声だけ聞えたと云ふなどは、一二枚の小品だがあはれな気がする。ビイアスは無気味《ぶきみ》な物を書くと、少くとも英米の文壇では、ポオ以後第一人の観のある男ですが、(Amborose Bierce)御当人も第四の空間へでも飛びこんだのか、メキシコか何処《どこ》かへ行《ゆ》く途中、杳《えう》として行方《ゆくへ》を失つた儘《まま》、わからずしまひになつてゐるさうです。
 幽霊――或は妖怪の書き方が変つて来ると同時に、その幽霊――或は妖怪《えうくわい》にも、いろいろ変り種《だね》が殖《ふ》えて来る。一例を挙げるとブラツクウツドなどには、エレメンタルスと云ふやつが、時々小説の中へ飛び出して来る。これは火とか水とか土
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