小説に「ジヨン・サイレンス」と云ふのがあるが、そのサイレンス先生なるものは、云はば心霊学のシヤアロツク・ホオムス氏で、化物《ばけもの》屋敷へ探険に行つたり悪霊《あくりやう》に憑《つ》かれたのを癒《なほ》してやつたりする、それを一々書き並べたのが一篇の結構になつてゐる訣《わけ》です。それから又「双子《ふたご》」と云ふ小説がある。これは極《ごく》短い物ですが、双子が一人《ひとり》になつてしまふ。――と云つたのでは通じないでせう、双子が体は二つあつても、魂《たましひ》は一つになつてしまふ。――一人《ひとり》に二人《ふたり》分の性格が出来ると同時に、他の一人は白痴《はくち》になつてしまふ。その径路《けいろ》を書いたものですが、外界には何も起らずに、内界に不思議な変化の起る所が、頗《すこぶ》る巧妙に書いてある。これなどはルイズやマテユリンには、到底《たうてい》見られない離《はな》れ業《わざ》です。序《ついで》にもう一つ例を挙げると、ウエルスが始めて書いたとか云ふ第四の空間があつて、何かの拍子《ひやうし》に其処《そこ》へはひると、当人はちやんと生きてゐても、この世界の人間には姿が見えない。云はば日
前へ
次へ
全8ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング