の方が遙《はるか》に頼もしい気がする。子供らしくつて可愛《かはい》かつたから、体操を知つてゐるかいと訊《き》いて見た。すると、体操は忘れたが、縄飛びなら覚えてゐると云ふ答へがあつた。ぢややつてお見せと云ひたかつたが、三味線《しやみせん》の音《ね》がし出したから見合せた。尤《もつと》もさう云つても、恐らくやりはしなかつたらう。
この三味線《しやみせん》に合せて、小林君が大津絵《おほつゑ》のかへ唄を歌つた。何《なん》でも文句《もんく》は半切《はんせつ》に書いたのが内にしまつてあつて、それを見ながらでないと、理想的には歌へないのださうである。時々あぶなくなると、そこにゐた二三人の芸者が加勢をした。更にその芸者があぶなくなると、おまつさんなる老妓《らうぎ》が加勢をした。その色々の声が、大津絵を補綴《ほてつ》して行く工合《ぐあひ》は、丁度《ちやうど》張《は》り交《ま》ぜの屏風《びやうぶ》でも見る時と、同じやうな心もちだつた。自分は可笑《をか》しくなつたから、途中であははと笑ひ出した。すると小林君もそれに釣りこまれて、とうとう自分で大津絵を笑殺《せうさつ》してしまつた。後はおまつさんが独りでしま
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