とか何《なん》とか云つてゐる。自分は敷島《しきしま》を啣《くは》へて、まだ仏頂面《ぶつちやうづら》をしてゐたが、やはりこの絵を見てゐると、落着きのある、朗《ほがらか》な好《い》い心もちになつて来た。
が、暫《しばら》くすると住職の坊さんが、小林君の方を向いて、こんな事を云った。
「もう少しすると、又一つ茶席が建ちます。」
小林君もこれには聊《いささ》か驚いたらしい。
「又光悦会ですか。」
「いいえ、今度は個人でございます。」
自分は忌々《いまいま》しいのを通り越して、へんな心もちになつた。一体|光悦《くわうえつ》をどう思つてゐるのだか、光悦寺をどう思つてゐるのだか、もう一つ序《ついで》に鷹ヶ峯をどう思つてゐるのだか、かうなると、到底《たうてい》自分には分らない。そんなに茶席が建てたければ、茶屋四郎次郎《ちややしらうじらう》の邸跡《やしきあと》や何かの麦畑でも、もつと買占めて、むやみに囲ひを並べたらよからう。さうしてその茶席の軒《のき》へ額《がく》でも提灯《ちやうちん》でもべた一面に懸けるが好《よ》い。さうすれば自分も始めから、わざわざ光悦寺などへやつて来はしない。さうとも。誰が来
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