あらざるべし。藤岡の常に損をするは藤岡の悪き訣《わけ》にあらず。只藤岡の理想主義者たる為なり。それも藤岡の祖父に当《あた》る人は川ばたに蹲《うづく》まれる乞食《こじき》を見、さぞ寒からうと思ひし余り、自分も襦袢《じゆばん》一枚になりて厳冬の縁側に坐り込みし為、とうとう風を引いて死にたりと言へば、先祖代々猛烈なる理想主義者と心得《こころう》べし。この理想主義を理解せざる世間は藤岡を目《もく》して辣腕家《らつわんか》と做《な》す。滑稽《こつけい》を通り越して気の毒なり。天下の人は何《なん》と言ふとも、藤岡は断じて辣腕家《らつわんか》にあらず。欺《だま》かし易く、欺かされ易き正直|一図《いちづ》の学者なり。僕の言を疑ふものは、試みにかう考へて見るべし。――芥川龍之介は才人なり。藤岡蔵六は芥川龍之介の旧友なり、その旧友に十五年来欺されてゐる才人ありや否《いな》や。(藤岡蔵六の先輩|知己《ちき》は大抵《たいてい》哲学者や何かなるべければ、三段論法を用ふること斯くの如し。)
 その他|菊池寛《きくちくわん》、久米正雄《くめまさを》、山本有三《やまもというざう》、岡栄一郎《をかえいいちらう》、成瀬正
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