柔道、水泳|等《とう》も西川と共に稽古《けいこ》したり。震災の少し前に西洋より帰り、舶来《はくらい》の書を悉《ことごとく》焼きたりと言ふ。リアリストと言ふよりもおのづからセンテイメンタリズムを脱せるならん。この間《あひだ》鳥取《とつとり》の柿《かき》を貰ふ。お礼にバトラアの本をやる約束をしてまだ送らず。尤《もつと》も柿の三分の一は渋柿なり。
 中原安太郎《なかはらやすたらう》 これも中学以来の友だちなり。諢名《あだな》は狸《たぬき》、されども顔は狸に似ず。性格にも狸と言ふ所なし。西川に伯仲《はくちう》する秀才なれども、世故《せこ》には西川よりも通ぜるかも知れず。菊池寛《きくちくわん》の作品の――殊に「父帰る」の愛読者。東京の法科大学を出《いで》、三井物産《みつゐぶつさん》に入《はり》り、今は独立の商売人なり。実生活上にも適度のリアリズムを加へたる人道主義者。大金儲《おほがねまうけ》したる時には僕に別荘を買つてくれる約束なれど、未《いま》だに買つてくれぬ所を見れば、大した収入もなきものと知るべし。
 山本喜誉司《やまもときよし》 これも中学以来の友だちなり。同時に又|姻戚《いんせき》の一
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