一人《ひとり》、(いえ、わたしの学校の先生ではありません。)いきなりわたしを抱《だ》き上げてはしけ[#「はしけ」に傍点]へ乗せてしまひました。それは勿論間違ひだつたのです。その先生は暫《しばら》くたつてから、わたしの学校の先生がわたしを受けとりにやつて来た時、何度もかう言つてあやまつてゐました。――「どうもうち[#「うち」に傍点]の生徒にそつくりだもんですから。」
その先生がわたしを抱き上げてはしけ[#「はしけ」に傍点]へ乗せた時の心もちですか? わたしはずゐぶん驚きましたし、怖いやうにも思ひましたけれども、その外《ほか》にまだ何《なん》となく嬉しい気もしたやうに覚えてゐます。
四 或運転手
銀座四丁目《ぎんざよんちやうめ》。或電車の運転手が一人《ひとり》、赤旗を青旗に見ちがへたと見え、いきなり電車を動かしてしまつた。が、間違ひに気づくが早いか、途方《とほう》もないおほ声に「アヤマリ」と言つた。僕はその声を聞いた時、忽ち兵営や練兵場を感じた。僕の直覚は当たつてゐたかしら。
五 失敗
あの男は何をしても失敗してゐた。最後にも――あの男は最後には壮士役者《
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