もパリパリ音を立てて雀の骨を噛み砕いてゐた。

     二 河鹿

 或温泉にゐる母から息子《むすこ》へ人伝《ひとづ》てに届けたもの、――桜の実《み》、笹餅、土瓶《どびん》へ入れた河鹿《かじか》が十六匹、それから土瓶の蔓に結《むす》びつけた走り書きの手紙が一本。
 その手紙の一節はかうである。――「この河鹿《かじか》は皆|雄《をす》に候。雌《めす》はあとより届け候。尤《もつと》も雌雄《めすをす》とも一つ籠に入れぬやうに。雌は皆雄を食ひ殺し候。」

     三 或女の話

 わたしは丁度《ちやうど》十二の時に修学旅行に直江津《なほえつ》へ行《ゆ》きました。(わたしの小学校は信州の×と云ふ町にあるのです。)その時始めて海と云ふものを見ました。それから又汽船と云ふものを見ました。汽船へ乗るには棧橋《さんばし》からはしけ[#「はしけ」に傍点]に乗らなければなりません。私達のゐた棧橋にはやはり修学旅行に来たらしい、どこか外《ほか》の小学校の生徒も大勢《おほぜい》わいわい言つてゐました。その外の小学校の生徒がはしけ[#「はしけ」に傍点]へ乗らうとした時です。黒い詰襟の洋服を着た二十四五の先生が
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