いていた。
「誰が轢かれたんだい?」
「踏切り番です。学校の生徒の轢かれそうになったのを助けようと思って轢かれたんです。ほら、八幡前《はちまんまえ》に永井《ながい》って本屋があるでしょう? あすこの女の子が轢かれる所だったんです。」
「その子供は助かったんだね?」
「ええ、あすこに泣いているのがそうです。」
「あすこ」というのは踏切りの向う側にいる人だかりだった。なるほど、そこには女の子が一人、巡査に何か尋《たず》ねられていた。その側には助役《じょやく》らしい男も時々巡査と話したりしていた。踏切《ふみき》り番は――保吉は踏切り番の小屋の前に菰《こも》をかけた死骸を発見した。それは嫌悪《けんお》を感じさせると同時に好奇心を感じさせるのも事実だった。菰の下からは遠目《とおめ》にも両足の靴《くつ》だけ見えるらしかった。
「死骸はあの人たちが持って行ったんです。」
こちら側のシグナルの柱の下には鉄道|工夫《こうふ》が二三人、小さい焚火《たきび》を囲《かこ》んでいた。黄いろい炎《ほのお》をあげた焚火は光も煙も放たなかった。それだけにいかにも寒そうだった。工夫の一人はその焚火に半ズボンの尻を炙《
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