寒さ
芥川龍之介

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)ある雪上《ゆきあが》りの午前だった

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)第一|家《いえ》を持つとしても

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)家内[#「家内」に傍点]
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 ある雪上《ゆきあが》りの午前だった。保吉《やすきち》は物理の教官室の椅子《いす》にストオヴの火を眺めていた。ストオヴの火は息をするように、とろとろと黄色《きいろ》に燃え上ったり、どす黒い灰燼《かいじん》に沈んだりした。それは室内に漂《ただよ》う寒さと戦いつづけている証拠だった。保吉はふと地球の外の宇宙的寒冷を想像しながら、赤あかと熱した石炭に何か同情に近いものを感じた。
「堀川《ほりかわ》君。」
 保吉はストオヴの前に立った宮本《みやもと》と云う理学士の顔を見上げた。近眼鏡《きんがんきょう》をかけた宮本はズボンのポケットへ手を入れたまま、口髭《くちひげ》の薄い唇《くちびる》に人の好《い》い微笑を浮べていた。
「堀川君。君は女も物体だと云うことを知っているかい?」
「動物だと云うことは知ってい
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