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僕は勿論その時にもそんなことの行はれないことをラツプに話して聞かせました。するとラツプばかりではない、ポスタアの近所にゐた河童は悉《ことごと》くげらげら笑ひ出しました。
「行はれない? だつてあなたの話ではあなたがたもやはり我々のやうに行つてゐると思ひますがね。あなたは令息が女中に惚れたり、令嬢が運転手に惚れたりするのは何の為だと思つてゐるのです? あれは皆無意識的に悪遺伝を撲滅してゐるのですよ。第一この間あなたの話したあなたがた人間の義勇隊よりも、――一本の鉄道を奪ふ為に互に殺し合ふ義勇隊ですね、――ああ云ふ義勇隊に比べれば、ずつと僕たちの義勇隊は高尚ではないかと思ひますがね。」
ラツプは真面目にかう言ひながら、しかも太い腹だけは可笑しさうに絶えず浪立たせてゐました。が、僕は笑ふどころか、慌てて或河童を掴《つか》まへようとしました。それは僕の油断を見すまし、その河童が僕の万年筆を盗んだことに気がついたからです。しかし皮膚の滑かな河童は容易に我々には掴まりません。その河童もぬらりと辷り抜けるが早いか一散に逃げ出してしまひました。丁度
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