「時鳥《ほととぎす》よ。おれよ。かやつよ。おれ泣きてぞわれは田に立つ。」
その伴 御覧よ。可笑《をか》しい法師ぢやないか。
鴉 かあかあ。かあかあ。
五位の入道 阿弥陀仏よや。おおい。おおい。
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暫時|人声《ひとごゑ》なし。松風の音 こうこう。
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五位の入道 阿弥陀仏よや。おおい。おおい。
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再び松風の音 こうこう。
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五位の入道 阿弥陀仏よや。おおい。おおい。
老いたる法師 御坊《ごばう》。御坊。
五位の入道 身共《みども》を御呼びとめなすつたかな?
老いたる法師 如何《いか》にも。御坊は何処へ御行きなさる?
五位の入道 西へ参る。
老いたる法師 西は海ぢや。
五位の入道 海でもとんと大事ござらぬ。身共は阿弥陀仏を見奉るまでは、何処《どこ》までも西へ参る所存《しよぞん》ぢや。
老いたる法師 これは面妖《めんえう》な事を承るものぢや。では御坊は阿弥陀仏が
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