か何かが、憑《つ》いてゐると思ふのだがね。
栗胡桃などを商ふ主 いや、私は狐だと思つてるのさ。
油を商ふ主 それでも天狗はどうかすると、仏に化けると云ふぢやないか?
栗胡桃などを商ふ主 何、仏に化けるものは、天狗ばかりに限つた事ぢやない。狐もやつぱり化けるさうだ。
手に足駄を穿ける乞食 どれ、この暇に頸《くび》の袋へ、栗でも一ぱい盗んで行かうか。
若き尼 あれあれ、あの金鼓《ごんぐ》の音《ね》に驚いたのか、鶏《とり》が皆屋根へ上《あが》りました。
五位の入道 阿弥陀仏よや。おおい。おおい。
釣をする下衆《げす》 これは騒々しい法師が来たものだ。
その伴《つれ》 どうだ、あれは? 跛《ゐざり》の乞食が駈けて行くぜ。
牟子《むし》をしたる旅の女 私はちと足が痛うなつた。あの乞食の足でも借りたいものぢや。
皮子《かはご》を負へる下人 もうこの橋を越えさへすれば、すぐに町でございます。
釣をする下衆 牟子の中が一目見てやりたい。
その伴 おや、側見《わきみ》をしてゐる内に、何時《いつ》か餌をとられてしまつた。
五位の入道 阿弥陀仏よや。おおい。おおい。
鴉《からす》 かあかあ。
田を植うる女
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