ゃあるまいし、誰が質になんぞ、置くものか。」
ざっと、こんな調子である。
するとある日、彼等の五六人が、円《まる》い頭をならべて、一服やりながら、例の如く煙管の噂《うわさ》をしていると、そこへ、偶然、御数寄屋坊主《おすきやぼうず》の河内山宗俊《こうちやまそうしゅん》が、やって来た。――後年《こうねん》「天保六歌仙《てんぽうろっかせん》」の中の、主な 〔role^〕 をつとめる事になった男である。
「ふんまた煙管か。」
河内山は、一座の坊主を、尻眼にかけて、空嘯《そらうそぶ》いた。
「彫《ほり》と云い、地金《じがね》と云い、見事な物さ。銀の煙管さえ持たぬこちとらには見るも眼の毒……」
調子にのって弁じていた了哲《りょうてつ》と云う坊主が、ふと気がついて見ると、宗俊は、いつの間にか彼の煙管入れをひきよせて、その中から煙草をつめては、悠然と煙を輪にふいている。
「おい、おい、それは貴公の煙草入れじゃないぜ。」
「いいって事よ。」
宗俊は、了哲の方を見むきもせずに、また煙草をつめた。そうして、それを吸ってしまうと、生《なま》あくびを一つしながら、煙草入れをそこへ抛《ほう》り出して、
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