イ・ゴオ・ラウンドと来ているんだ。おまけに二人とも木馬の上へ、ちゃんと跨《またが》っていたんだからな。今考えても莫迦莫迦《ばかばか》しい次第さ。しかしそれも僕の発議《ほつぎ》じゃない。あんまり和田が乗りたがるから、おつき合いにちょいと乗って見たんだ。――だがあいつは楽じゃないぜ。野口《のぐち》のような胃弱は乗らないが好《い》い。」
「子供じゃあるまいし。木馬になんぞ乗るやつがあるもんか?」
野口という大学教授は、青黒い松花《スンホア》を頬張ったなり、蔑《さげす》むような笑い方をした。が、藤井は無頓着《むとんじゃく》に、時々和田へ目をやっては、得々《とくとく》と話を続けて行った。
「和田の乗ったのは白い木馬、僕の乗ったのは赤い木馬なんだが、楽隊と一しょにまわり出された時には、どうなる事かと思ったね。尻は躍るし、目はまわるし、振り落されないだけが見っけものなんだ。が、その中でも目についたのは、欄干《らんかん》の外《そと》の見物の間に、芸者らしい女が交《まじ》っている。色の蒼白い、目の沾《うる》んだ、どこか妙な憂鬱な、――」
「それだけわかっていれば大丈夫だ。目がまわったも怪しいもんだぜ。
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