一夕話
芥川龍之介
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)この頃《ごろ》は油断がならない
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)実際|今昔《こんじゃく》の感に堪えなかったね
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)占城《チャンパ》[#ルビの「チャンパ」は底本では「チャンバ」]
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「何しろこの頃《ごろ》は油断がならない。和田《わだ》さえ芸者を知っているんだから。」
藤井《ふじい》と云う弁護士は、老酒《ラオチュ》の盃《さかずき》を干《ほ》してから、大仰《おおぎょう》に一同の顔を見まわした。円卓《テエブル》のまわりを囲んでいるのは同じ学校の寄宿舎にいた、我々六人の中年者《ちゅうねんもの》である。場所は日比谷《ひびや》の陶陶亭《とうとうてい》の二階、時は六月のある雨の夜、――勿論《もちろん》藤井のこういったのは、もうそろそろ我々の顔にも、酔色《すいしょく》の見え出した時分である。
「僕はそいつを見せつけられた時には、実際|今昔《こんじゃく》の感に堪えなかったね。――」
藤井は面白そうに弁じ続けた。
「医科の和田といった日に
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