た為に、憾《うら》むらくは所期の点に達し得なかつた。而も十分の一位で中絶して居るのは、甚だ惜むべきことである。
レエンの訳本――日本へは最も広く流布《るふ》してゐる。殊にボオン(Bohn)叢書の二巻ものは、本郷《ほんがう》や神田《かんだ》の古本屋《ふるほんや》でよく見受けられる――は底本《ていほん》としたバラク(Bulak)版が元々省略の多いものであり、其の上に二百ある話の中から半分の百だけを訳出したもので、随《したが》つて残りの百話の中に却《かへ》つて面白いものが有ると云ふやうな訣《わけ》で、お上品に出来過ぎて了《しま》つて、応接間向きの趣向《しゆかう》は好《よ》いとしても、慊《あきた》らないこと夥《おびただ》しい。お負けに、レエンは一夜一夜《いちやいちや》を章別にした上に、或章は註の中《うち》に追入れて了《しま》つたり、詩を散文に訳出したり又は全然捨てて了つたりして居るし、児戯《じぎ》に類する誤訳も甚だ多いと云ふ次第。
次にペエン――フランソア・ヴイヨン(〔Franc,ois Vilon〕)の詩を英訳した――の「一千一夜物語」の訳は、旧来のものに比べると格段に優《すぐ》れてゐる
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