授の仏訳本である。これは勿論完訳ではない。ただ甚だ愛誦するに足る抄訳本と云ふ位のものである。ガラン以後にも手近い所でフオスタア(Foster)だとかブツセイ(Bussey)だとかいろいろ訳本の無い訣《わけ》ではない。併し何《いづ》れも訳語や文体は仏蘭西《フランス》臭味を漂《ただよ》はせた、まづ少年読物と云ふ水準を越えないものばかりである。
 ガラン教授から一世紀の後《のち》――即ち一八〇〇年以後の主《おも》なる訳者を列挙して見ると、大体|下《しも》の通りである。
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1. Dr. Jonathan Scott. (1800)
2. Edward Wortley. (1811)
3. Henry Torrens. (1838)
4. Edward William Lane. (1839)
5. John Pane. (1885)
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 トレンズの訳本は、在来のもののやうに英仏臭味を帯びないもので、其の点では一歩を進めたものであるが、訳者が十分原語に通暁《つうげう》してゐなかつたし、殊に埃及《エヂプト》やシリヤの方言《はうげん》などを全く知らなかつ
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