WITH INTRODUCTION EXPLANATORY NOTES ON THE MANNERS AND CUSTOMS OF MOSLEM MEN AND A TERMINAL ESSAY UPON THE HISTORY OF THE NIGHTS BY RICHARD F. BURTON.
[#ここで字下げ終わり]
 巻数は補遺共十八冊で、出版所はバアトン倶楽部《クラブ》、一八八五年から一八八八年へかけて刊行されてゐる。
 訳者バアトン並びにバアトン訳本の次第は次々に話すことにしませう。

     二

 訳者バアトンは東方諸国を跋渉《ばつせう》した英吉利《イギリス》の陸軍大尉であるが、本の方を中心にしてお話すると、バアトンの訳本の成立ちは、第一巻の「訳者の序言」と第十一巻の「一千一夜《いちせんいちや》物語の伝記並に其の批評者の批評」とに収められて居る。
 抑《そもそ》もバアトンが此《こ》の翻訳を思ひ立つたのは、アデン在留の医師ジヨン・スタインホイザアと一緒《いつしよ》に、メヂヤ、メツカを旅行した時のことで、バアトンが第一巻を此のスタインホイザアに献《けん》じてゐるのを以て視《み》ても、二人《ふたり》の道中話《だうちうばなし》がどんなであつたかは分る。
 其の旅行は一八五二年の冬のことで、其の途中で、バアトンはスタインホイザアと亜剌比亜《アラビア》[#「亜剌比亜」は底本では「亜刺比亜」]のことをいろいろ話してゐる中《うち》に、おのづと話題が「一千一夜物語」に移つて行つて、とうとう二人《ふたり》の口から、「一千一夜物語」は子供の間《あひだ》に知れ渡つてゐるにも拘《かか》はらず本当の値打が僅かに亜剌比亜《アラビア》[#「亜剌比亜」は底本では「亜刺比亜」]語学者にしか認められてゐないと云ふ感慨が洩《も》れて出た。それから話が一歩進んで、何《ど》うしても完全な翻訳が出したいと云ふことに纏《まと》まり、スタインホイザアが散文を、バアトンが韻文《いんぶん》を訳出する筈に決して、別れた。
 それから両人は互に文通して、励まし合つてゐたが、幾《いくばく》も無くスタインホイザアが瑞西《スイス》のベルンで卒中《そつちう》で斃《たふ》れて了《しま》つた。スタインホイザアの稿本は散逸《さんいつ》して、バアトンの手に入《はひ》つたものは僅かであつた。
 その後バアトンは、西部|亜
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