ことう》の妓院の或部屋。
わたしはその後《ご》、幸か不幸か、この美しい少女の顔程、病的な性慾に悩まされた、いたいたしい顔に遇《あ》つたことはない。
日本の聖母
山田右衛門作《やまだゑもさく》は天草《あまくさ》の海べに聖母|受胎《じゆたい》の油画《あぶらゑ》を作つた。するとその夜《よ》聖母「まりや」は夢の階段を踏みながら、彼の枕もとへ下《くだ》つて来た。
「右衛門作《ゑもさく》! これは誰の姿ぢや?」
「まりや」は画《ゑ》の前に立ち止まると、不服さうに彼を振り返つた。
「あなた様のお姿でございます。」
「わたしの姿! これがわたしに似てゐるであらうか、この顔の黄色い娘が?」
「それは似て居らぬ筈でございます。――」
右衝門作《ゑもさく》は叮嚀《ていねい》に話しつづけた。
「わたしはこの国の娘のやうに、あなた様のお姿を描《か》き上げました。しかもこれは御覧の通り、田植《たうゑ》の装束《しやうぞく》でございます。けれども円光《ゑんくわう》がございますから、世の常の女人《によにん》とは思はれますまい。
「後《うし》ろに見えるのは雨上《あまあが》りの水田《すゐでん》、水田の向
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