わが散文詩
芥川龍之介

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)継《つ》がう

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)十年|前《まへ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「均のつくり」、第3水準1−14−75]《にほひ》
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     秋夜

 火鉢に炭を継《つ》がうとしたら、炭がもう二つしかなかつた。炭取の底には炭の粉《こな》の中に、何か木《こ》の葉が乾反《ひぞ》つてゐる。何処《どこ》の山から来た木の葉か?――今日《けふ》の夕刊に出てゐたのでは、木曾《きそ》のおん岳《たけ》の初雪も例年よりずつと早かつたらしい。
「お父さん、お休みなさい。」
 古い朱塗《しゆぬり》の机の上には室生犀星《むろふさいせい》の詩集が一冊、仮綴《かりとじ》の頁《ペエジ》を開いてゐる。「われ筆とることを憂《う》しとなす」――これはこの詩人の歎きばかりではない。今夜もひとり茶を飲んでゐると、しみじみと心に沁みるものはやはり同じ寂しさである。
「貞《てい》や、もう表
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