助の申し条を不思議に思った。それは今まで調べられた、どの切支丹門徒《きりしたんもんと》の申し条とも、全く変ったものであった。が、奉行が何度|吟味《ぎんみ》を重ねても、頑として吉助は、彼の述べた所を飜《ひるがえ》さなかった。

        三

 じゅりあの[#「じゅりあの」に傍線]・吉助は、遂に天下の大法《たいほう》通り、磔刑《たっけい》に処せられる事になった。
 その日彼は町中《まちじゅう》を引き廻された上、さんと・もんたに[#「さんと・もんたに」に傍線]の下の刑場で、無残にも磔《はりつけ》に懸けられた。
 磔柱《はりつけばしら》は周囲の竹矢来《たけやらい》の上に、一際《ひときわ》高く十字を描いていた。彼は天を仰ぎながら、何度も高々と祈祷を唱えて、恐れげもなく非人《ひにん》の槍《やり》を受けた。その祈祷の声と共に、彼の頭上の天には、一団の油雲《あぶらぐも》が湧き出でて、ほどなく凄じい大雷雨が、沛然《はいぜん》として刑場へ降り注いだ。再び天が晴れた時、磔柱の上のじゅりあの[#「じゅりあの」に傍線]・吉助は、すでに息が絶えていた。が、竹矢来《たけやらい》の外にいた人々は、今でも彼の祈
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