かなる謂《いわ》れがあるぞ。」
吉助「えす・きりすと[#「えす・きりすと」に傍線]様、さんた・まりや[#「さんた・まりや」に傍線]姫に恋をなされ、焦《こが》れ死《じに》に果てさせ給うたによって、われと同じ苦しみに悩むものを、救うてとらしょうと思召し、宗門神となられたげでござる。」
奉行「その方はいずこの何ものより、さような教を伝授《でんじゅ》されたぞ。」
吉助「われら三年の間、諸処を経めぐった事がござる。その折さる海辺《うみべ》にて、見知らぬ紅毛人《こうもうじん》より伝授を受け申した。」
奉行「伝授するには、いかなる儀式を行うたぞ。」
吉助「御水《おんみず》を頂戴致いてから、じゅりあの[#「じゅりあの」に傍線]と申す名を賜《たまわ》ってござる。」
奉行「してその紅毛人は、その後いずこへ赴いたぞ。」
吉助「されば稀有《けう》な事でござる。折から荒れ狂うた浪を踏んで、いず方へか姿を隠し申した。」
奉行「この期《ご》に及んで、空事《そらごと》を申したら、その分にはさし置くまいぞ。」
吉助「何で偽《いつわり》などを申上ぎょうず。皆|紛《まぎ》れない真実でござる。」
奉行は吉
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