じゅりあの・吉助
芥川龍之介

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)吉助《きちすけ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)性来|愚鈍《ぐどん》な彼は

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)じゅりあの[#「じゅりあの」に傍線]
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        一

 じゅりあの[#「じゅりあの」に傍線]・吉助《きちすけ》は、肥前国《ひぜんのくに》彼杵郡《そのきごおり》浦上村《うらかみむら》の産であった。早く父母に別れたので、幼少の時から、土地の乙名三郎治《おとなさぶろうじ》と云うものの下男《げなん》になった。が、性来|愚鈍《ぐどん》な彼は、始終朋輩の弄《なぶ》り物にされて、牛馬同様な賤役《せんえき》に服さなければならなかった。
 その吉助が十八九の時、三郎治《さぶろうじ》の一人娘の兼《かね》と云う女に懸想《けそう》をした。兼は勿論この下男の恋慕の心などは顧みなかった。のみならず人の悪い朋輩は、早くもそれに気がつくと、いよいよ彼を嘲弄《ちょうろう》した。吉助は愚物ながら、悶々《もんもん》の情に堪えなかったものと見えて、ある夜|私《ひ
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