吉助の顔が、その時はまるで天上の光に遍照《へんしょう》されたかと思うほど、不思議な威厳に満ちていたと云う事であった。

        二

 奉行《ぶぎょう》の前に引き出された吉助《きちすけ》は、素直に切支丹宗門《きりしたんしゅうもん》を奉ずるものだと白状した。それから彼と奉行との間には、こう云う問答が交換された。
 奉行「その方どもの宗門神《しゅうもんしん》は何と申すぞ。」
 吉助「べれん[#「べれん」に傍線]の国の御若君《おんわかぎみ》、えす・きりすと[#「えす・きりすと」に傍線]様、並に隣国の御息女《ごそくじょ》、さんた・まりや[#「さんた・まりや」に傍線]様でござる。」
 奉行「そのものどもはいかなる姿を致して居《お》るぞ。」
 吉助「われら夢に見奉るえす・きりすと[#「えす・きりすと」に傍線]様は、紫の大振袖《おおふりそで》を召させ給うた、美しい若衆《わかしゅ》の御姿《おんすがた》でござる。まったさんた・まりや[#「さんた・まりや」に傍線]姫は、金糸銀糸の繍《ぬい》をされた、襠《かいどり》の御姿《おんすがた》と拝《おが》み申す。」
 奉行「そのものどもが宗門神となったは、い
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