お律と子等と/芥川竜之介

ｴじながら、妙に無愛想《ぶあいそう》な会釈《えしゃく》を返した。それから蒲団《ふとん》の裾《すそ》をまわって、母の顔がよく見える方へ坐った。
　お律は眼をつぶっていた。生来｜薄手《うすで》に出来た顔が一層今日は窶《やつ》れたようだった。が、洋一の差し覗《のぞ》いた顔へそっと熱のある眼をあけると、ふだんの通りかすかに頬笑《ほほえ》んで見せた。洋一は何だか叔母や姉と、いつまでも茶の間《ま》に話していた事がすまないような心もちになった。お律はしばらく黙っていてから、
「あのね」とさも大儀《たいぎ》そうに云った。
　洋一はただ頷《うなず》いて見せた。その間も母の熱臭いのがやはり彼には不快だった。しかしお律はそう云ったぎり、何とも後《あと》を続けなかった。洋一はそろそろ不安になった。遺言《ゆいごん》、――と云う考えも頭へ来た。
「浅川の叔母さんはまだいるでしょう？」
　やっと母は口を開いた。
「叔母さんもいるし、――今し方姉さんも来た。」
「叔母さんにね、――」
「叔母さんに用があるの？」
「いいえ、叔母さんに梅川《うめがわ》の鰻《うなぎ》をとって上げるの。」
　今度は洋一が微笑した。
「美津�

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