お律と子等と
芥川龍之介
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)洋一《よういち》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)始終|爛《ただ》れている眼を
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「勹<夕」、第3水準1−14−76]
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一
雨降りの午後、今年中学を卒業した洋一《よういち》は、二階の机に背を円《まる》くしながら、北原白秋《きたはらはくしゅう》風の歌を作っていた。すると「おい」と云う父の声が、突然彼の耳を驚かした。彼は倉皇《そうこう》と振り返る暇にも、ちょうどそこにあった辞書の下に、歌稿を隠す事を忘れなかった。が、幸い父の賢造《けんぞう》は、夏外套《なつがいとう》をひっかけたまま、うす暗い梯子《はしご》の上り口へ胸まで覗《のぞ》かせているだけだった。
「どうもお律《りつ》の容態《ようだい》が思わしくないから、慎太郎《しんたろう》の所へ電報を打ってくれ。」
「そんなに悪いの?」
洋一は思わず大きな声を出した。
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