に比《くら》べると、まだしもふだんと変らなかった。が、彼等は三人とも、堆《うずたか》い薪《たきぎ》を踏《ふ》まえたまま、同じように静かな顔をしている。
刑場のまわりにはずっと前から、大勢《おおぜい》の見物が取り巻いている。そのまた見物の向うの空には、墓原の松が五六本、天蓋《てんがい》のように枝を張っている。
一切《いっさい》の準備の終った時、役人の一人は物々《ものもの》しげに、三人の前へ進みよると、天主のおん教を捨てるか捨てぬか、しばらく猶予《ゆうよ》を与えるから、もう一度よく考えて見ろ、もしおん教を捨てると云えば、直《すぐ》にも縄目《なわめ》は赦《ゆる》してやると云った。しかし彼等は答えない。皆遠い空を見守ったまま、口もとには微笑《びしょう》さえ湛《たた》えている。
役人は勿論見物すら、この数分の間《あいだ》くらいひっそりとなったためしはない。無数の眼はじっと瞬《またた》きもせず、三人の顔に注がれている。が、これは傷《いたま》しさの余り、誰も息を呑んだのではない。見物はたいてい火のかかるのを、今か今かと待っていたのである。役人はまた処刑《しょけい》の手間どるのに、すっかり退屈し
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