月ばかり、土の牢に彼等を入れて置いた後《のち》、とうとう三人とも焼き殺す事にした。(実を云えばこの代官も、世間一般の人々のように、一国の安危に関《かかわ》るかどうか、そんな事はほとんど考えなかった。これは第一に法律があり、第二に人民の道徳があり、わざわざ考えて見ないでも、格別不自由はしなかったからである。)
じょあん[#「じょあん」に傍線]孫七《まごしち》を始め三人の宗徒《しゅうと》は、村はずれの刑場《けいじょう》へ引かれる途中も、恐れる気色《けしき》は見えなかった。刑場はちょうど墓原《はかはら》に隣った、石ころの多い空き地である。彼等はそこへ到着すると、一々罪状を読み聞かされた後《のち》、太い角柱《かくばしら》に括《くく》りつけられた。それから右にじょあんな[#「じょあんな」に傍線]おすみ、中央にじょあん[#「じょあん」に傍線]孫七、左にまりや[#「まりや」に傍線]おぎんと云う順に、刑場のまん中へ押し立てられた。おすみは連日の責苦《せめく》のため、急に年をとったように見える。孫七も髭《ひげ》の伸びた頬《ほお》には、ほとんど血の気《け》が通《かよ》っていない。おぎんも――おぎんは二人
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