の暗い土の牢さえ、そのまま「はらいそ」の荘厳と変りはない。のみならず尊い天使や聖徒は、夢ともうつつともつかない中に、しばしば彼等を慰めに来た。殊にそういう幸福は、一番おぎんに恵まれたらしい。おぎんはさん・じょあん・ばちすた[#「さん・じょあん・ばちすた」に傍線]が、大きい両手のひらに、蝗《いなご》を沢山|掬《すく》い上げながら、食えと云う所を見た事がある。また大天使がぶりえる[#「がぶりえる」に傍線]が、白い翼を畳んだまま、美しい金色《こんじき》の杯《さかずき》に、水をくれる所を見た事もある。
 代官《だいかん》は天主のおん教は勿論、釈迦《しゃか》の教も知らなかったから、なぜ彼等が剛情《ごうじょう》を張るのかさっぱり理解が出来なかった。時には三人が三人とも、気違いではないかと思う事もあった。しかし気違いでもない事がわかると、今度は大蛇《だいじゃ》とか一角獣《いっかくじゅう》とか、とにかく人倫《じんりん》には縁のない動物のような気がし出した。そう云う動物を生かして置いては、今日《こんにち》の法律に違《たが》うばかりか、一国の安危《あんき》にも関《かかわ》る訣《わけ》である。そこで代官は一
前へ 次へ
全15ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング