の風に吹かれながら、御降誕《ごこうたん》の祈祷を誦《じゅ》しつづけた。
「べれん[#「べれん」に傍線]の国にお生まれなされたおん若君様、今はいずこにましますか? おん讃《ほ》め尊《あが》め給え。」
 悪魔は彼等の捕われたのを見ると、手を拍《う》って喜び笑った。しかし彼等のけなげなさまには、少からず腹を立てたらしい。悪魔は一人になった後《のち》、忌々《いまいま》しそうに唾《つば》をするが早いか、たちまち大きい石臼《いしうす》になった。そうしてごろごろ転がりながら闇の中に消え失《う》せてしまった。
 じょあん[#「じょあん」に傍線]孫七《まごしち》、じょあんな[#「じょあんな」に傍線]おすみ、まりや[#「まりや」に傍線]おぎんの三人は、土の牢《ろう》に投げこまれた上、天主《てんしゅ》のおん教を捨てるように、いろいろの責苦《せめく》に遇《あ》わされた。しかし水責《みずぜめ》や火責《ひぜめ》に遇っても、彼等の決心は動かなかった。たとい皮肉は爛《ただ》れるにしても、はらいそ[#「はらいそ」に傍線](天国《てんごく》)の門へはいるのは、もう一息の辛抱《しんぼう》である。いや、天主の大恩を思えば、こ
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