字下げ]
   私は 雲の多い月夜の空をあはれなさけび声をあげて通る犬の群の影を見たことがある
[#ここで字下げ終わり]


五月の花婿

青い五月の空に風が吹いてゐる

陽ざしのよい山のみねを
歩いてゐる ガラスのきやしや[#「きやしや」に傍点]な人は
金魚のやうにはなやかで
新ら[#「ら」に「ママ」注記]しい時計のよ[#「よ」に「ママ」注記]うに美く[#「く」に「ママ」注記]しい

ガラスのきやしや[#「きやしや」に傍点]な人は
五月の気候の中を歩いてゐる


無題詩

ある詩の話では
毛を一本手のひらに落してみたといふのです
そして
手のひらの感想をたたいてみたら
手のひらは知らないふりをしてゐたと云ふのですと


十二月の路

のつぺりと私をたいらにする影はいつたい何です

蝶のかげでせうか
それとも 少女の微笑なのかしら

晴れた十二月の路に
私のかげは潰されたよりずつと平らです


五月

或る夕暮
なまぬるい風が吹いて来た

そして
部屋の中へまでなまぬるい風が流れこんできた

太陽が――馬鹿のよ[#「よ」に「ママ」注記]うな太陽が
遠くの煙突の所に沈みかけてゐた



前へ 次へ
全31ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
尾形 亀之助 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング