題詩

から壜の中は
曇天のやうな陽気でいつぱいだ

ま昼の原を掘る男のあくびだ

昔――
空びんの中に祭りがあつたのだ


美しい娘の白歯

うつかり
話もしかけられない
気むず[#「ず」に「ママ」注記]かしやの白い美しい歯なみは
まつたく憎らしい


今日は針の気げんがわるい

今日は針の気げんがわるい

三度も指をつついてしまつたし
なかなか 糸もとほらなかつた
プッツ プッツ プッツ プッツ ――
針は布をくぐつては気げんのわるい顔を出しました

「お婆さん お茶にしませう」と針が
だが
お婆さんは耳が遠いので聞えません


女の顔は大きい

私は馬車の中で
妻を盗まれた男から話をしかけられてゐる

だんだん話を聞いてゐるうちに
妻を盗まれたのはどうも私であるらしい

で――
それはほんのちよつと前のことだとその男が云ふのでした

×

私は いつのまに馬車を降りたのか
妻の顔を恥かしそ[#「そ」に「ママ」注記]うに見てゐました


とぎれた夢の前に立ちどまる

月あかりの静かな夜る[#「る」に「ママ」注記]――

私は
とぎれた夢の前に立ちどまつてゐる

×

闇は唇のやうに
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