は山を登る

そして
私の心は少しの重みをもつて私について来る

×

十一月の晴れわたつた朝
私は新ら[#「ら」に「ママ」の注記]しい洋服にそでをとほしてゐる

×

髪につけた明るいりぼん[#「りぼん」に傍点]に
私の心は軽る[#「る」に「ママ」の注記]い


私は待つ時間の中に這入つてゐる

ひつそりした電車の中です
未だ 私だけしか乗つてはゐません

赤い停車場の窓はみなとざされてゐて
丁度――
これから逢ひにゆく友が
部屋のなかに本を読んでゐるのですが
煙草を吸ふことを忘れてゐるので何か退屈そ[#「そ」に「ママ」の注記]うにしてゐます


春の街の飾窓

顔をかくしてゐるのは誰です

私の知つてゐる人ではないと思ふのですが
その人は私を知つてゐさうです

―――――――


犬の影が私の心に写つてゐる

明るいけれども 暮れ方のやうなもののただよつてゐる一本のたて[#「たて」に傍点]の路――
柳などが細々とうなだれて 遠くの空は蒼ざめたがらすのやうにさびしく
白い犬が一匹立ちすくんでゐる

おゝ これは砂糖のかたまりがぬるま湯の中でとけるやうに涙ぐましい

×
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