そして 娘は月に照らされた
娘は 月夜のかなしい思慕に美しい顔を月にむけて
そこには梅の木や松の木の不思議にのびた平らな黒い影があつた
そして その上に月が出てゐた
娘はかなしい歌をうたつた
そして瞳はぬれて 静かに歩る[#「る」に「ママ」注記]いてゐた
娘は鬱蒼と茂つた森林に這入つた
そして そこで娘は彼女のやさしい心にささやいた
「美しい月夜」
立木は眠つてゐた 彼女は失な[#「な」に「ママ」注記]つたものをやさしい彼女の心にたづねた
娘は蒼白な月につつまれてにつこりともしない
そして娘はそつと部屋に這入つた
月の光りは部屋の中に明るい海のやうに漂つてゐた
窓近く娘は椅子をひき寄せた
十八になつた 娘はかなしい
月が遠い
娘は顔を掩つた
と―― 祭りのやうなうたごゑが次第にたかまつてきて娘の耳にも聞きとれさうであるが それは静かな雨の夜にポツンと雨の一しづくがとよ[#「よ」に「ママ」注記]をうつやうな わけもなく淋みしい音色を引いてゐた
娘の心の底から湧いてくるやうに でもあつた
娘は眠つてゐるやうに動かない
娘の影が少しづつずれて、そして彼女から離れてしまつた
そして 月の光
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