りの中に娘の影は笛のやうに細く浮んでゐた
3−B
娘が窓から月を見てゐた
はなやかな月夜の夕暮れである
「ああ 消えてゆきさうな――」と娘は身をかばう[#「う」に「ママ」注記]やうに窓を閉めた

明るく照らされた窓を 月が見てゐた
そして 娘の見た幻想の中に 自分を見つけた
針金のやうに細く 青く 水のやうに孤独な人格をもつた自分を――
月が娘の窓近く降りて来ると 部屋の中に力なくすすり泣く娘のなげきを聞いた
「恋人よ――
恋人よ――
今宵は月までが泣いてゐる」
娘は泣きぬれて顔をあげた
月は窓を離れた そしてさりげなく月は笛のやうにせまく細く青い 娘の幻想をよこぎつて通つた
月は天に帰るまで娘の嗚咽を聞いた
月の忍びの足音は消された
あたりはしんとした
空に青い月が出てゐた
4−
青い月夜の夕暮がつゞいてゐた
人人は 娘の泣く不思議な感情になやまされた

老人の一人娘も その隣りの娘も
美しいばかりに 冷め[#「め」に「ママ」注記]たい顔をして泣きくれてゐた
娘はみな泣いてゐた
泣きごゑがふるへて風に吹かれた
そして空の方へ消えていつた

人人は空を見あげた
娘らの泣くこゑの消える 
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