たランプと 山で別れた言葉が幽霊のやうに立つてゐた
すすけたランプの古臭い微笑が さし伸べた彼の指さきに吸ひ込まれたやうに消えると部屋は再び
うす暗くなつて
いま 彼はひとり部屋の中に眠つてゐる
2−B
或る所に
月が出るやうになると 女が男のもとへ通つた
そして 夜の青じろい月を女は指した
黒い男と女の影のやうなものが、男と女の足もとのところから出て地べたを這つてゐた
紙のやうに薄い 白い女の顔が男の顔へ掩ひかぶさると――
月はそれを青く染め変へた
3−A
ゆらゆらと月が出た

月が空に鏡をはりつめた
高いのと遠いので虫のやうに小い[#「い」に「ママ」注記]さく人が写つてゐた
家家では窓をしめて燈をともした
娘は 安楽椅子に腰かけて歌をうたつた
この わるい幻想の季節の娘について 親達は心を痛めてゐたが
娘はその手招きを見てゐた
そして 少しづつかたむいてゆく心に何かしら望みをかけてゐた

娘は白粉をつけていたが青く見えた
娘はうつむいて 死んだ目白のことを思つてゐた
あわ[#「わ」に「ママ」注記]れでならなかつた
月にてらされて地べたに浅く埋づまつてゐることを思つた
娘は庭へ出た

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