からぬが苦が[#「が」に「ママ」注記]笑ひをしてゐた
寝不足をしてゐるのかもしれない
夢の中に お[#「お」に「ママ」注記]かしいことがあつてこらへきれずに 笑ひを口もとに浮かべてしまつたのかも知れない
でも 胸は静かに息をしてゐた
広広した中に胸だけが大きく息をしてゐるのが見えた
2−A
月の匂ひの寂び[#「び」に「ママ」注記]しげな中に しつとりと春がとけこんで淋び[#「び」に「ママ」注記]しい者は自分の名を呼ぶ笛のやうな響をかすかに心に聞いた――
淋みしい 淋みしい――
春
何処かに一人ぐらゐは自分を愛してゐる者があるだらう――青年は山に登つて遠くを見つめてゐる
空と 地べたに埋もれてゐるのは
と 青年は自分の大きな手をひろげてつくづくと見入る
そして青年の言葉は彼の指さきから離れて 遠く高い煙突などにまぎれて極まりなく飛んで行つてしまふ
まもなく青年は彼の部屋に 寝台の上に弱々しく埋づまつてゐる
青年の夢は昨日からつづいてゐる
とぎれた心と心がむすびつかふ[#「ふ」に「ママ」注記]とする まつ白な夢だ
夜半 青年は夢に疲れて寝言を云つた
彼のさし伸べた手の近くにすすけ
前へ
次へ
全31ページ中27ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
尾形 亀之助 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング