太陽が焦げた
八月は空のお祭りだ
何んと澄しこんだ風と窓だ
三色菫だ
無題詩
ある眠つた若い女のよこ顔は
白い色の花の一つが丁度咲き初めた頃
私が その垣のそばを通りかかつて見あげた空が
夕方家へ帰つて見たときに黄ばんでゐたことです
夕暮れに温くむ心
夕暮れは
窓から部屋に這入つてきます
このごろ私は
少女の黒い瞳をまぶたに感じて
少しばかりの温く[#「く」に「ママ」注記]みを心に伝へてゐるものです
夕暮れにうず[#「ず」に傍点]くまつて
そつと手をあげて少女の愛を求めてゐる奇妙な姿が
私の魂を借りにくる
風邪きみです
誰もゐない応接間を
そつとのぞくのです
ちかごろ 唯の一人も訪ねて来るものもない
栄養不良の部屋を
そつと 部屋にけどられないやうにして
壁のすきから息をひそめてのぞくのです
×
風邪《かぜ》がはやります
私も風邪をひいたやうです
白い路
(或る久しく病める女のために私はうつむきに歩いてゐる)
両側を埃だらけの雑草に挟まれて
むくむくと白い頭をさびしさうにあげて
原つぱの中に潜ぐるやうになくなつてゐる路
今 お前のものとして残つてゐ
前へ
次へ
全31ページ中23ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
尾形 亀之助 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング