太陽が焦げた
八月は空のお祭りだ

何んと澄しこんだ風と窓だ
三色菫だ


無題詩

ある眠つた若い女のよこ顔は

白い色の花の一つが丁度咲き初めた頃
私が その垣のそばを通りかかつて見あげた空が
夕方家へ帰つて見たときに黄ばんでゐたことです


夕暮れに温くむ心

夕暮れは
窓から部屋に這入つてきます

このごろ私は
少女の黒い瞳をまぶたに感じて
少しばかりの温く[#「く」に「ママ」注記]みを心に伝へてゐるものです

夕暮れにうず[#「ず」に傍点]くまつて
そつと手をあげて少女の愛を求めてゐる奇妙な姿が
私の魂を借りにくる


風邪きみです

誰もゐない応接間を
そつとのぞくのです
ちかごろ 唯の一人も訪ねて来るものもない
栄養不良の部屋を
そつと 部屋にけどられないやうにして
壁のすきから息をひそめてのぞくのです

×

風邪《かぜ》がはやります
私も風邪をひいたやうです


白い路

(或る久しく病める女のために私はうつむきに歩いてゐる)
両側を埃だらけの雑草に挟まれて
むくむくと白い頭をさびしさうにあげて
原つぱの中に潜ぐるやうになくなつてゐる路

今 お前のものとして残つてゐ
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