女はきまつて短かく刈りこんだ土手の草の上に坐つて花を摘んでゐるのです

私は
彼女が土手の草の上に坐つて花を摘んでゐることを想ひます
そして
彼女が水のやうな風に吹かれて立ちあがるのを待つてゐるのです


たひらな壁

たひらな壁のかげに
路があるらしい――
そして
その路は
すましこんだねずみか
さもなければ極く小さい人達が
電車に乗つたり子供をつれたりして通る西洋風の繁華な街だ

たひらな壁のかげは
山の上から見える遠くの方の街だ


或る少女に

あなたは
暗い夜の庭に立ちすくんでゐる
何か愉快ではなささうです

もしも そんなときに
私があなたを呼びかけて
あなたが私の方へ歩いてくる足どりが
私は好きでたまらないにちがひない


七月の 朝の

あまりよく晴れてゐない
七月の 朝の
ぼんやりとした負け惜みが
ひとしきり私の書斎を通つて行きました

――後
先の尖がつた鉛筆のシンが
私をつかまへて離さなかつた
 (電話)
「モシモシ――あなたは尾形亀之助さんですか」
「いいえ ちがひます」


小石川の風景詩



電柱と
尖つた屋根と

灰色の家



新らしいむぎわら[#
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