ですが


七月

「蜻蛉のしつぽ[#「しつぽ」に傍点]はきたない」

なんのことか
おれはそんなことを考へてゐた
そして
ときどき思ひ出した
七月


うす曇る日

私は今日は
私のそばを通る人にはそつと気もちだけのおじぎをします
丁度その人が通りすぎるとき
その人の踵のところを見るやうに

静かに
本のページを握つたままかるく眼をつぶつて
首をたれます

うす曇る日は
私は早く窓をしめてしまひます


十一月の私の眼

赤い花を胸につけた
丈の低いがつしりした男が
私の眼をよこぎらうとしてゐます

十一月の白ら[#「ら」に「ママ」注記]んだ私の眼を近くまで歩みよつたのです


少女

少女の帯は赤くつて
ずゐぶんながい

くるくると
どんな風にしてしめるのか
少女は美く[#「く」に「ママ」注記]しい


彼の居ない部屋

部屋には洋服がかかつてゐた

右肩をさげて
ぼたんをはづして
壁によりかかつてゐた

それは
行列の中の一人のやうなさびしさがあつた
そして
壁の中にとけこんでゆきさうな不安が隠れてゐた

私は いつも
彼のかけてゐる椅子に坐つてお化けにとりまかれた


旅に出た
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